【医師監修】12年間で3.5倍にも増えている「アトピー性皮膚炎」の悩みと対処法

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はじめに

アトピー性皮膚炎(アトピー)は、かゆみと湿疹を繰り返す慢性疾患です。国内患者数は35万人から125万人(厚生労働省「患者調査」2008年-2020年)まで大きく増えています。子どもの頃に発症することが多く、一般的には成長とともに症状は改善していきますが、一部の患者は成人になってからもかゆみや湿疹などの症状が続きます。
本コラムでは、多くの人が抱えるアトピーに関する悩みと治療法、事例を紹介します。

 

アトピー性皮膚炎の基礎

アトピー性皮膚炎とは

アトピー性皮膚炎の概念・定義は「アトピー性皮膚炎は増悪・寛解を繰り返す痒(痒み)のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ」とされています。

アトピー素因とは

⒈本人または家族がアトピー性皮膚炎や気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎などのアレルギー性の病気を持っていること。
⒉アレルギーと関係の深い免疫物質「IgE抗体」を作りやすい体質であること。

これらの疾患の症状は全く異なりますが、発症メカニズムに共通点があると考えられています。

アトピー性皮膚炎はアトピー素因にいろいろな環境要因が加わって発症すると考えられています。いまだ不明な点も多いですが、皮膚の”バリア機能”(外界のさまざまな刺激、乾燥などから体の内部を保護する機能)が低下していることや皮膚に炎症があることが分かっています。外からアレルゲンなどの刺激が入りやすくなっており、これらが免疫細胞と結びつき、炎症を引き起こします。また、かゆみを感じる神経が皮膚の表面まで伸びてきて、かゆみを感じやすい状態となっており、掻くことによりさらにバリア機能が低下するという悪循環に陥ってしまいます。アトピー性皮膚炎とは

 

参考:“『アトピー性皮膚炎の皮膚で起こっていること(病態)』アトピー性皮膚炎の概要と基本的治療 ~厚生労働科学研究「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2005」を中心に~”. https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-03.pdf, (参照2024-06-21)

アトピー性皮膚炎の要因と特徴

アトピー性皮膚炎の原因は、さまざまな要因が重なり合って起こると言われています。

遺伝的な要因を含むアトピー素因や「皮膚のバリア機能(外部から有害物質や刺激が体内に侵入することを防いだり皮膚から水分などが失われないようにする皮膚の働き)低下」などの『体質による要因』とアレルギー症状を引き起こす物質(アレルゲン)などによる皮膚への刺激やストレスなど『環境による要因』があります。

アトピー性皮膚炎の皮膚は乾燥肌(dry skin)が特徴で、皮膚のバリア機能の低下がみられます。急性期の病巣部では腫れっぽくジクジクした滲出傾向が強く、慢性期では乾燥してゴツゴツした苔癬化(たいせん)が顕著となります。
発症に関わる因子には多くのものが考えられていますが、その重要性は個人によって異なるため、治療に際してはそれを十分把握することが重要です。

 

参考:“『アトピー性皮膚炎の起こり方』アトピー性皮膚炎の概要と基本的治療 ~厚生労働科学研究「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン2005」を中心に~”. https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-03.pdf, (参照2024-06-21)

アトピー性皮膚炎の診断と治療

「アトピー性皮膚炎」の診断

アトピー性皮膚炎の症状は湿疹です。急性期の病変ではジクジクした滲出(しんしゅつ)傾向が強く紅斑(皮膚の赤み)、湿潤性紅斑、丘疹(きゅうしん)、漿液性丘疹(しょうえきせいきゅうしん)、鱗屑(りんせつ)、痂皮(かひ)などの症状がみられます。一方、慢性期の病変部ではゴツゴツした苔癬(たいせん)化傾向が強く、浸潤性紅斑・苔癬化病変、痒疹、鱗屑、痂皮などの症状がみられます。
診断は治療ガイドラインに示されている診断基準にしたがって行われます。

「アトピー性皮膚炎」の診断基準

1.掻痒(そうよう)かゆみ:かゆみは我慢しづらく、睡眠中でさえ、無意識にでもかいてしまいます。
2.特徴的皮疹と分布①皮疹は湿疹病変
②分布は左右対側性:
乳児期…顔にはじまり体幹、四肢に降下、幼小児期…頸部、四肢屈曲部の病変が目立つ、思春期・成人期…上半身に皮疹が強い傾向
3.慢性・反復性経過乳児:2ヶ月以上、その他:6ヶ月以上を慢性とする

上記 1,2,および 3 の項目を満たすものを、症状の軽重を 問わずアトピー性皮膚炎と診断する。そのほかは急性あるい は慢性の湿疹とし,年齢や経過を参考にして診断する。
日本皮膚科学会ガイドラインより

アトピー性皮膚炎の治療

  1. 薬物療法(皮膚の炎症を抑える治療)
  2. スキンケア(皮膚の清潔を保ち、うるおいのある状態を保つこと)
  3. 原因・悪化要因の検索と対策(環境中の悪化因子をみつけ、可能な限り取り除くこと)

の3つが治療の基本です。正しい治療によって、「寛解導入(症状を改善させ湿疹のないすべすべのお肌にすること)」を行います。

お肌の炎症をとる抗炎症薬物治療薬は以下の通りです。

外用薬ステロイド外用薬 (治療の基本となるお薬です)
タクロリムス水和物軟膏(2歳以上)
ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬 (6カ月以上)
ホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害薬(3カ月以上)
経口薬経口ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬(12歳以上)
注射薬ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体 皮下注射(6カ月以上)
ヒト化抗ヒトIL-31受容体Aモノクローナル抗体 皮下注射(13歳以上)

アトピー性皮膚炎の悪化要因

アトピー性皮膚炎を悪化させるものは、以下のような様々なものが挙げられます。
また、これらが重なり合って起こることが多いです。これらの悪化要因の対策を行うことも治療を行う上で大切なことになります。

  • ダニ
  • カビ
  • 花粉
  • 汗や汚れ
  • ペット
  • ストレス
  • 季節の変化
  • 生活環境の影響
  • 風邪などの体調不良
  • 掻きむしることにより悪化する

参考:“皮膚トラブルと疾患(しみ、アトピー性皮膚炎など)の症状や原因、治療法”. NHKきょうの健康.https://www.nhk.jp/p/kyonokenko/ts/83KL2X1J32/blog/bl/p92Kj48qlx/bp/p3KngljkW0/, (参照2024-05-31)

アトピー性皮膚炎の自宅ケア

三大治療法の他に、自宅でできるケアを紹介します。皮膚を清潔に保って乾燥を避けましょう。

【皮膚の清潔】

  1. 入浴・シャワー(長く湯船に浸からない 熱い温度のお湯は避ける)
  2.  汗や汚れは速やかにおとす(強くこすらない)
  3.  石鹸・シャンプーは洗浄力の強いものは避け、残らないように十分すすぐ
  4.  入浴後には必要に応じて適切な外用剤を塗布する

【皮膚の保湿】

  1. 保湿剤
  2.  入浴・シャワー後は必要に応じて保湿剤を塗布する
  3.  患者ごとに使用感のよい保湿剤を選択する

【その他】

  1.  室内を清潔にし、適温・適湿を保つ
  2.  皮膚への刺激を避ける
  3.  掻 破による皮膚の傷害を避ける(爪を切り、手袋や包帯)
  4.  ストレスをためない

アトピー性皮膚炎治療の最前線

2021年に「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」が改訂され、新たな治療薬が登場しました。これまで用いられていた治療薬が対症療法の薬だったことに対し、新たに登場したデュピルマブ(商品名「デュピクセント」)などの生物学的製剤や、デルゴシチニブ(商品名「コレクチム」)、バリシチニブ(商品名「オルミエント」)などのJAK阻害薬(JAKという酵素の働きを抑える薬)は、かゆみや炎症が生じる前に抑えこむ薬です。いずれの薬も「炎症性サイトカイン」という皮膚のかゆみや炎症を発生・悪化させる物質に作用して効果を発揮します。ただし、アトピー性皮膚炎の治療スタイルが一新されたのでありません。現在でも『薬物療法』の初手はステロイドやタクロリムス軟膏などを用いた治療です。そうした治療を最低半年行なっても改善がみられない場合に、新たな薬が治療の選択肢にあがります。

開発が進み、デュピルマブ以外の治療効果の高い薬の種類も増えています。

一般名商品名分類投与方法承認年
デュピルマブデュピクセント生物学的製剤皮下注射2018年
ネモリズマブミチーガ生物学的製剤皮下注射2022年
トラロキヌマブアドトラーザ生物学的製剤皮下注射2022年
デルゴシチニブコレクチムJAK阻害薬外用2020年
バリシチニブオルミエントJAK阻害薬経口2020年
ウパダシチニブリンヴォックJAK阻害薬経口2021年
アブロシチニブサイバインコJAK阻害薬経口2021年
ジファミラストモイゼルトPDE4阻害薬外用2021年

アトピー性皮膚炎の治療に革新的ともいえる効果をもたらした新たな薬ですが、最大のネックはその金額です。生物学的製剤の「デュピクセント」の場合は3割負担で、初診時が3万5000円程度、再診以降では1万7600円程度がかかります。JAK阻害薬やPDE4阻害薬も、ステロイドの塗り薬より高額です。

参考:“アトピー性皮膚炎 最新治療情報”. NHKチョイス@病気になったとき.https://www.nhk.jp/p/kenko-choice/ts/7JKJ2P6JVQ/episode/te/585MJ42LLZ/, (参照2024-06-21)

参考:“治療法が大きな進歩を遂げている⁉ 「アトピー性皮膚炎」治療の最新事情”.社会福祉法人恩賜財団済生会.https://www.saiseikai.or.jp/medical/column/atopic_dermatitis/, (参照2024-06-21)

ヨクミルの相談事例の紹介

ヨクミルを利用して、アトピーに関連するお悩みを相談した事例を紹介します。どのような悩みがあり、実際にどのように解決したか参考にしてください。
オンラインなので、自宅などから気軽に、日本人医師に相談できます。クリックすると詳細が見られます。

また、こちらのWebサイトではアトピー・アレルギーの悩みと体験談を見ることができます。

参考:“アトピー・アレルギーを知る悩めるみんなの本音がわかる1000人の体験談”. 資生堂.https://www.shiseido.co.jp/sen-shinjitsu/knowledge/voice-vol1.html, (参照2024-05-31)

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おわりに

アトピー性皮膚炎は完治が難しい疾患ですが、適切な治療と自己管理によって症状を軽減し、日常生活に支障がない、薬を必要としない状態を維持していくことができます。

正しい知識を持ち、自分に合った対策を見つけましょう。そのためにも、できる限り早期に皮膚科の専門医に相談して、患部の皮膚を良好な状態に改善・コントロールしていくことが重要です。

 

YOKUMIRU株式会社について

yokumiru.jp『日本発の「安心」で世界を満たす。』を企業理念とし、2022年に設立。海外で活躍している日本人のためのオンライン医療相談サービス「ヨクミル」、海外勤務中の従業員の健康管理で安全配慮義務や健康経営へアプローチできる法人向けオンライン医療相談サービス「法人向けヨクミル」を提供しています。
世界中どこにいてもお手持ちのパソコンやスマホのアプリを利用して、手軽に日本人専門医に医療相談ができます。

 

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監修者プロフィール
相談科:
  • 皮膚科
専門領域:
  • 皮膚科
水野みずの 京子きょうこ先生
2014年よりアメリカに移住。日本では、皮膚科全般、特にアトピー性性皮膚炎や乾癬、蕁麻疹、ニキビが専門で、赤ちゃんから老人まで幅広い診療経験を持つ。現在はホリスティック医療を学び、人が本来持っている治癒力を引き出す「ポジティヴへルス」という考え方を取り入れ、真の意味で健康になるための医療相談を行っている。皮膚のトラブル、慢性的な肌の悩みや市販薬のことなども相談できる。
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YOKUMIRU株式会社 ヨクミル編集部
工藤くどう 英揮
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