目次
パラグアイ共和国の基本情報
手つかずの自然と野生動物の宝庫
迫力満点の滝や世界遺産も多い南米のパラダイス
パラグアイ共和国は、南米大陸のほぼ中央に位置し、首都アスンシオンと17の県からなり、アルゼンチン、ブラジル、ボリビアと国境を接する海を持たない内陸国です。海岸線はないものの、南米の水路ネットワークを形成する多数の重要な水路が通っています。また、グアラニー帯水層は地球上最大規模の淡水量を誇ります。
面積は40万6,752平方キロメートルで日本の約1.1倍、北側は手つかずの大自然が残り、南側では世界的にも有名な滝や世界遺産を観ることができ、「南米のパラダイス」とも呼ばれています。
また、国土を南北に流れるパラグアイ川によって、自然環境が全く異なる東部パラグアイと西部パラグアイに二分されています。東部パラグアイは農業に適した赤土が広がり、多くの日系移住地もあります。落差40メートルのモンダウの滝もあり、パラグアイの大自然を思う存分満喫できます。西部パラグアイ(チャコ地方)は、草原および潅木地帯で人口も少なく、放牧を中心とした地域で野生動物の宝庫にもなっています。
人口は約713万人(2020年、世銀)、先住民族グアラニー族とスペイン人との血が交じり合ったメスティーソが95%を占めます。他には、先住民2%、欧州系2%、その他1%です。言語はスペイン語、グアラニー語(ともに公用語)で、宗教はほとんどがカトリック(信教の自由は憲法で保障)です。
約52万人の人口を有する首都アスンシオンは、年中花に溢れた広い並木道が通り、ホテルやショッピングモール、映画館、劇場が点在する国際都市です。その他の主要都市は、エンカルナシオン、シウダ・デル・エステ、ペドロ・フアン・カバジェロなどがあります。
移住者達の情熱と苦労が築いた日本の信頼
パラグアイを含む中南米は、地理的に遠く隔たっていることもあり、日本人にとって「身近」「親しみやすい」国であるとは言えません。しかし、中南米各国には古くから日本人移住者が渡り、各国において想像を絶する労苦を重ねた結果、今日では移住先各国の官民双方から、「日本人移住者」そして「日本」「日本人」が、非常に高い評価と尊敬を勝ち得るまでになりました。
パラグアイへの日本人の移住は1936年に始まり、第二次世界大戦で一時中断されましたが、戦後、1954年のチャベス移住地への入植で再開しました。入植当初の移住者は、原生林を斧で倒して焼き、仮小屋に住まい、広大な赤土の大地を開拓しました。現在の日系社会の全体的に豊かな生活は、入植者たちのこうした並々ならぬ情熱と苦労の上に築かれたものと言えます。
移住者は様々な分野で活躍していますが、その多くは農業に従事してきました。野菜栽培を行い、元来肉ばかりで野菜を食べる習慣のなかったパラグアイ人の食卓に多くの野菜・果物を供給したり、現在、重要な輸出農産物の一つとなっている大豆を導入したりと、多くの努力を重ね、パラグアイの農業を発展させてきました。このことは、パラグアイの誰もが認めるところであり、パラグアイ経済・社会に大きく貢献してきた日本人移住者を通し、日本に対するパラグアイ国民の信頼と評価も極めて高いものとなっています。
戦後入植した日系の人々がイグアス居住区に多く暮らし、日本に誇りを持って生きる古き良き時代の日本が残っています。ここでは資料館や農場を見学して、彼らのたどった歴史と現在の生活に触れることができます。
現在の在留邦人は、5,330名(2021年10月、外務省海外在留邦人数調査統計)。前述のような理由から、パラグアイは親日国としても有名で、日系人街では日本語が通じ、本格的な日本食を食べることもできます。
日本人が導入した大豆が世界第3位の輸出量
経済は、農牧畜業と電力が輸出総額の8割以上を占めていて、アルゼンチン、ブラジルの経済状況に依存しています。主要農作物は、大豆、トウモロコシ、小麦、綿花、マテ茶、ゴマ等で、近年は甘味料や健康食品、化粧品の原料として知られるステビア生産にも力を入れています。日本人移住者が導入し急成長した、大豆の輸出量は世界第3位(2021年 穀物・油糧作物輸出協会(CAPECO))です。また、世界第9位の牛肉輸出国(2020年米国農務省(USDA))でもあります。
近年、積極的な外資誘致策をしていて、低い税率と安価な労働力や電力等を背景に、自動車部品等製造を中心に、日本企業を含めた外国企業の進出が活発化しています。他方で、経済は農作物の生産状況と国際価格に大きく左右される脆弱性を抱えており、中南米において経済開発が遅れている国の一つです。
さらに、パラグアイは世界的にも貧富の格差が大きく、特に農村地域においてその傾向が顕著である他、電力・運輸・水分野をはじめとする経済・社会インフラの整備状況も不十分であり、これらの脆弱性を克服することが、持続的経済・社会開発を進める上で不可欠となっています。
パラグアイには10,000名を超える日本人移住者とその子弟が暮らしていて、世界有数の日系社会を形成しています。今後も重要なパートナーとして活躍が期待されています。
パラグアイの衛生・医療事情
都市部以外は長距離搬送や近隣諸国への搬送も
相当額の補償の海外旅行傷害保険がオススメ
夏期(10月〜4月)は非常に蒸し暑く、日中気温は40℃を超えることもあります。一方、冬期(5月〜9月)の平均気温は20℃前後で推移しますが、日内気温差が大きく、朝晩は0℃近くにまで下がったかと思えば、日中は30℃を越えることもあります。
インフラ整備は未だ不十分な所もあり、首都アスンシオンでも大雨が降ると道路が泥水や汚水で溢れ、しばしば停電も起こります。主要都市中心部の上下水道は完備されていますが、飲用には水道水を煮沸するかミネラルウォーターの購入をお勧めします。また、一般的なレストランで調理された食品は、ほぼ問題ありませんが、路上や屋台で売られている食品には不衛生な物もあるので注意してください。
医療施設のほとんどが都市部に集中しており、辺縁地域では、診療を受けるために車で5〜6時間走らなければならないところも少なくありません。公立医療機関は、設備が老朽化していたり、医薬品不足のため自ら医薬品を調達する必要が生じたりするなど、日本における医療イメージとは異なることもあります。
このような理由から、在留邦人や旅行者は、比較的医療設備が整った私立病院を利用する機会が多くなります。現地の私立病院を受診する際には、診察や検査のたびに現金を前払いするか、支払い能力があることを示す保険証、またはクレジットカードなどを提示しないと診療が始まらないこともあります。
また、医師の多くは、複数の医療機関(公立や私立の病院、個人診療所など)を掛け持ちで診療をしていることが多いため、事前に診察場所と時間を確認し、予約しておく必要があるので注意してください。特殊な病気や重症化した場合は、設備が整った近隣諸国への移送が必要となる場合があります。緊急移送費用は非常に高額になりがちなため、相当額の補償がある海外旅行傷害保険に加入しておくことをお勧めします。
日本語が堪能な日系パラグアイ人医師が在籍している医療機関があります。中には、日本への留学経験がある医師も存在し、かなり日本に近いイメージで受診できることもあります。
パラグアイでかかりやすい病気・ケガ
種々の感染症がしばしば流行し、駆逐が困難な風土病もあります。
(1)旅行者下痢症
感染性下痢症が珍しくなく、細菌性赤痢やA型肝炎などの発生もしばしば報じられています。感染性下痢症以外に、旅先での食事内容の違いやストレスも原因となります。生水は飲まない、衛生的に調理され、かつ適切な保管状態の食品のみ摂取する等の注意をしてください。渡航前には、A型肝炎ワクチンの予防接種をお勧めします。
(2)蚊媒介感染症
夏季に国内全地域で流行します。予防には「防蚊対策」がとても重要です。急な高熱など蚊媒介感染症の発症が疑われた際は、必ず医療機関を受診してください。また、近年は患者数が著しい増加傾向にあり、渡航前には最新情報の入手に努めてください。
(a)デング熱
ネッタイシマカまたはヒトスジシマカによって媒介される、デングウイルスが原因です。2~14日(多くは3~7日)の潜伏期間後、突然の高熱(38~40℃)が5~7日続き、激しい頭痛、眼窩痛、関節痛、筋肉痛などを伴うことが多いです。発症から3~4日後に薄いピンク色の発疹が出現することも特徴です。
多くの場合、これらの症状は1週間程度で回復しますが、一部は出血傾向を示し、デング出血熱として重症化してゆきます。適切な治療が行われないと死に至る場合もありますので、感染が疑われた時には、自己判断のみで解熱剤を内服するなどの行動は避け、必ず医療機関を受診してください。
(b)チクングニア熱
ネッタイシマカまたはヒトスジシマカによって媒介される、チクングニヤウイルスが原因です。3~12日(多くは3~7日)の潜伏期間後、高熱とともに多発関節痛が出現し、発疹もみられます。症状はデング熱と似通っており、関節痛は長期間遷延することもあります。
(c)ジカウイルス感染症
ネッタイシマカまたはヒトスジシマカによって媒介される、ジカウイルスが原因です。症状が全く無い症例も多く、輸血や性交渉でも感染する危険があります。2〜12日(多くは2〜7日)の潜伏期間後、初発症状から発疹や結膜炎症状などが出現し、発熱は微熱程度のことが多いとされます。頭痛や吐き気、下痢などを呈することもあります。
感染後しばらくしてギラン・バレー症候群(手足が麻痺する病気)を併発する危険や、妊婦が感染すると胎児が小頭症という奇形を有する危険もあります。ジカウイルスは、精液中に長期にわたって生存する可能性があるので、流行地域への滞在中および滞在後には、一定期間の避妊が勧められています。
(d)黄熱病
ネッタイシマカなどによって媒介される黄熱ウイルスが原因です。3~6日の潜伏期間後、突然の高熱と悪寒、頭痛、筋肉痛、吐き気などが出現します。重症化してくると、黄疸や出血、タンパク尿などを呈する致死率の高い感染症です。
通常、黄熱ウイルスは森林の中に生息する野生脊椎動物(主にサル)の集団の中に存続しています。感染経路には、ヒトが密林地帯に入り込んでウイルスを持つ蚊に刺されることで感染する「森林型」と、感染したヒトから蚊を介して人口集中域で拡がる「都市型」があります。2008年の流行は、サン・ペドロ県の労働者が密林地帯で感染した「森林型」から始まり、その後「都市型」へ移行したと考えられています。予防接種が有効です。
(3)シャーガス病
原虫(クルーズトリパノソーマ)が原因です。サシガメという2cm大の昆虫に刺されたり、その排泄物を口にしたりすることにより感染します。急性期は無症状か皮膚の変色や浮腫等ですが、急性心筋炎などを合併すると死亡することもあります。
更に感染した25%は、数年後に慢性期症状(心疾患、消化器疾患、神経疾患等)を発症します。サシガメは石や漆喰の壁の割れ目に潜み、夜間に吸血活動をするので、田舎の民家や古いホテルなどに宿泊する場合は要注意です。感染すると、駆虫治療が必要となります。
(4)狂犬病
原因となる狂犬病ウイルスは、犬だけではなくコウモリを含む全ての哺乳類に感染します。潜伏期間は1~3か月、長い場合は1〜2年後に発症した例もあります。効果的な治療法は無く、発症するとほぼ100%死に至ります。
パラグアイでは街中に野良犬が多く、2005年以降にヒトが発症した報告はありませんが、牛や犬の発症は確認されているため注意が必要です。野良犬や野良猫、アライグマ、コウモリなどの野生動物へ、むやみに近付いて噛まれないよう注意してください。
ワクチン接種方法には、暴露前免疫(咬まれる前のワクチン接種)と暴露後免疫(咬まれた後のワクチン接種)の2種類があります。渡航前には、暴露前免疫をお勧めしますが、接種を完了していても、深い咬傷を受けた場合には、暴露後免疫も必要となります。もしも哺乳類に噛まれた時は、直ちに水でよく洗浄し、速やかに最寄りの医療機関にて医師の判断を仰いでください。
(5)リーシュマニア病
サシチョウバエによって媒介されるリーシュマニア原虫が原因です。人獣共通感染症の1つで、蚊の1/3程の大きさのサシチョウバエに吸血されることによって感染します。パラグアイでは皮膚リーシュマニア症が多く、感染後、数ヶ月から数年して顔や手足などの皮膚にクレーター状の潰瘍を生じます。地方の原生林付近や乾燥地帯で多く発生します。
(6)その他
サソリや蜘蛛、蛇などの有毒小動物にも注意が必要です。当地のサソリは刺されても死に至ることは滅多にありませんが、激痛が1~2日持続します。また、シウダ・デル・エステ市周辺では、脳脊髄膜炎をきたす広東住血線虫の宿主であるアフリカマイマイも生息しています。
健康上心がけること
(1)食中毒
下水道設備が不十分な地域は、感染性下痢症や寄生虫症に容易に感染しやすい環境と言えます。日頃から手洗いを励行し、非衛生な水や食品は避け、十分調理した食品を摂取しましょう。また、出来るだけ上下水道が確保された宿泊所を利用してください。
(2)防蚊対策
蚊媒介感染症はヒトからヒトへ直接感染することはありませんが、患者から蚊を介して感染する危険性があります。日頃から長袖シャツと長ズボンの着用を心がけ、肌の露出を避けるとともに、露出部分には虫除け剤(DEET、イカリジン、ピカリジンなどの有効成分を含むもの)を、数時間おきに塗布するなど、蚊に刺されない対策が大切です。蚊の駆除も重要で、日頃からボウフラの温床となる水たまり(タイヤ、バケツ、植物プランター、花瓶、ゴミ箱など)を作らないよう努めてください。また、蚊の成虫は、室内の暗く涼しい場所やクローゼットの中、ベッドの下、カーテンの後ろ、浴室などに潜んでいることが多いので、ホテルに宿泊する時などは、注意深く観察し駆除を心がけてください。
(3)熱中症
夏は非常に暑く湿度も高いので、定期的な水分補充をしないと容易に脱水状態になります。こまめに水分を摂り日中は炎天下を避け、なるべく屋内で涼しく過ごしましょう。
(4)ストレス等
娯楽施設が少なく生活が単調になりがちなため、長期滞在の場合には気分転換を図れるスポーツや趣味を持つ工夫が必要です。食事も楽しみの1つと言えますが、食べ過ぎ飲み過ぎによる生活習慣病に注意してください。
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