先ごろ、「枕が高いと脳卒中になりやすい」ことが、国立循環器病研究センター 脳神経内科の研究発表で分かり、注目を集めています。通常、脳卒中は高齢者に起こる病気ですが、枕が高いいわゆる「殿様枕症候群」による脳卒中は、スマホを頻繁に使用する若い世代にも多いのが特徴です。その原因と予防法を専門医に解説してもらいました。
約18%に障害が残る「特発性椎骨動脈解離」
同研究では、脳卒中の原因の一つである「特発性椎骨(ついこつ)動脈解離」は、枕が高いほど発症割合も高く、固い枕では関連がより顕著であることを立証し、「殿様枕症候群」という新たな疾患概念を提唱しています。
特発性椎骨動脈解離は脳卒中の原因のひとつで、首の後ろの椎骨動脈という血管が裂けてしまうことで、脳卒中を起こします。15〜45歳の若い世代では、脳卒中の原因の8〜10%を占めるとされています。発症すると、働き盛り世代の約18%に何らかの障害が残り、根本治療がないことから予防のための原因究明が求められていましたが、患者の約3分の2が原因不明でした。
枕の高さが影響している脳卒中発症率
研究チームが、2018〜23年に脳卒中で入院した人の中で、特発性椎骨動脈解離と診断された53人(Aグループ)と、違う要因で脳卒中になり入院し、性別や年齢の条件を揃えた53人(Bグループ)と比較して、発症時に使用していた枕の高さを調査しました。
Aグループ | Bグループ | |
脳卒中発症要因 | 特発性椎骨動脈解離と診断された53人 | その他の要因で「脳卒中」と診断された53人 |
12cm以上(高い) | 18人(34%) | 8人(15%) |
15cm以上(極端に高い) | 9人(17% | 1人(1.9%) |
その結果、Aグループで12センチ以上の枕を使っていた人は、18人(34%)、一方Bグループでは8人(15%)で、15センチ以上の枕はAグループで9人(17%)、Bグループでは1人(1.9%)という結果になり、枕が高いほど特発性椎骨動脈解離を発症しやすいことが分かりました。
研究チームでは、12センチ以上は高い枕、15センチ以上は極端に高い枕と分類していて、極端に高い枕を使っていた患者の中には、スマホやテレビを見る目的などで枕を複数重ねたり、巻いた布団で代用したりしていたケースもありました。
枕が高いと首が大きく曲がり、椎骨の血管へ負担が大きくなるだけでなく、寝返りで首が回るときなどに血管が傷つく可能性が高く、特発性椎骨動脈解離の発症の要因になると考えています。枕が柔らかくても、15センチを超える高さの枕は、首が大きく曲がるので使用を控えるのが望ましいです。
昔から9センチ程度が早死にしないと言われた
日本では「殿様枕」と呼ばれる高くて硬い枕が、17〜19世紀に使われていました。髷などを結った髪型を維持するのに有効とされ、庶民の間でも流通していて、1800年代の随筆に「寿命三寸楽四寸」という言葉が複数出てきます。これは「12センチ程度の高い枕は髪型が崩れずに楽だが、9センチ程度が早死にしなくて済む」という意味で、当時の人々は、高い枕と脳卒中の関連性を認識していたのかも知れません。
特に若い世代では、ベッドでスマホやタブレットを使用して映画や漫画を見ることが習慣になっていて、見やすい姿勢を維持するために枕などを重ねて使用いる人が多いようです。そのまま寝てしまうことが癖になると危険です。理想の枕の高さは、真っすぐ立っているポジションに近い形で寝られるようなもの選ぶのがお勧めです。
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